目の前のコップを指で弾くと音が鳴った。
部屋の中を照らすライトが空のペットボトルに反射している。ペットボトルの向こう側がぼやけている。
ライトの光があって、僕はそれらを見ている。光が影を作る。椅子、本、時計、全てに影が出来ている。当然のように。
手を振る。風を感じる。机に触れる。冷たい。
目に見える秩序と呼吸。
僕はそれらを見ているようで、暗黙の内に了解していた。こんなにも心を躍らせるものに囲まれて、それを納得していた。見逃していた。
生まれたときから、ずっとそこにあったもの。理解したことにして、生きやすさを求め続けていた。
「それはただのコップだよ」
「それはただの音、ただの光、ただの空気だよ」
見逃したというより、受け止めきれなかったんだと思う。そして無感動のラベルをどんどん貼っていった。
それを剥がすのに、特別なことは必要ない。無数の奇跡が目の前にあった。
「やっと気づいた?」
「ずっとそこにいたよ」
世界とつながった気がした。僕がそれに気づいた事に、世界が一斉に応えた気がした。
理由というより応答として、涙が流れた。
コメントを残す